サンズファームは3代続く農家です。4人の社員と8人のパートさんで、45000坪(およそ東京ドーム3個分)の農地を管理しています(2020年5月現在)。農地の2/3が減農薬の慣行栽培、1/3が無農薬・無肥料・無堆肥の自然栽培で、大根やキャベツなどおよそ20種類の野菜を生産しています。
お中元やお歳暮に贈られる自然栽培の野菜
無農薬・無肥料の自然栽培は25年前に始めました。きっかけは当時、次男が患っていた小児喘息。医者にも見放されて諦めかけていましたが、食生活で体調が変わることを知り「家族のために安全な野菜を作る」と決意して自然栽培を始めました。しばらくすると次男の体調はよくなり、夜中に何度も発症していた発作の回数も激減。科学的な根拠はわかりませんが、自分の中では確かな手応えがありました。
自然栽培の野菜は慣行栽培と比べてえぐみが少なく、野菜本来の香りと味がします。農薬も化学肥料も堆肥も使わない、水と太陽と土とミネラルと微生物が育て上げる、野菜本来の力強い味わいです。嬉しいことに毎年、お中元やお歳暮として使っていただいているお客様もいます。
土にストレスを与えない
一般的に農薬は害虫や病気を防ぐ役割で、化学肥料は成長を促進させる役割ですが、自然栽培はどちらも使いません。自然栽培でそれらの代わりになるものが”土壌”、いわゆる土です。そして一番大切にしていることは「土にストレスを与えないこと」です。
土の中のミネラルや微生物を自然のままに、時間をかけて土を育て上げます。化学肥料や農薬で弱った土壌だとしても、土に悪いことをしなければ、土が本来持つ能力にまで回復していきます。あとは草取りです。これには時間をかけて丁寧に行っています。草取りだけで、全体の人件費の1/3を費やすほど。
しかし、自然栽培の畑にも波があります。例えば、土の能力を引き出すことができて、力強い大根が育つ畑ができたとしても、数年後にはまた弱々しい細長い大根になってしまいます。そんなときは畑を2〜3年休ませると、また力強い大根が育つようになります。野菜の生育は土により左右します。それだけ、土壌のミネラルと微生物のバランスは大切です。自然とは本当に不思議なものです。
これらは生科研の創始者:中嶋常允先生の考え方が基本になっています。およそ30年前、中島先生が作られた野菜を食べて衝撃を受けたことをいまでも鮮明に覚えています。その後、講演会に足を運びお話をさせていただいた後からお付き合いが始まり、中島先生はうちの畑や家にも来てくれて様々なアドバイスをしていただきました。
農薬・化学肥料・除草剤の弊害
自然栽培を始めてから最初の十数年は、様々な農地をお借りして土壌の作り替えや、虫の被害の実験を繰り返しました。そのなかでわかってきたことは、作物が虫や病気の被害にあう原因は、肥料にあるのではということでした。これは個人的な考えで、科学的な根拠を説明することもできませんが、現場作業を経てわたしが体感したことです。
例えば、化学肥料を使っていた畑で自然栽培を始めても必ず失敗します。1年目は虫の発生量も多く、畑に広がるスピードも早くて作物は必ず全滅します。2年目には虫の発生量、広がる範囲やスピードもやや鈍化して、3年目になると虫の被害はごくわずかになります。
そんなときに言われていたことは、例えばキャベツの場合、虫はキャベツを食べるのではなくて、そこに含まれる成分を食べるということ。つまり、キャベツに含まれる(土壌から吸い上げられた)化学肥料の残渣を食べると言われていました。そのため、次第に土壌内の肥料残渣が少なくなる3年後には、被害がほとんどなくなると言われていました。
また、農薬や肥料を多く使った野菜と自然栽培の野菜を腐らせてみると、臭いの質が違います。自然栽培はどれだけ腐らせても無臭または自然の枯葉のような臭いですが、化学肥料を多く使った野菜は鼻を突く、いわゆる生ゴミ臭がします。それだけ野菜は成長の過程で、根から農薬や化学肥料を吸収しているということが考えられます。
通常は3〜5年で土を作り替えることができますが、農薬や肥料を撒かれすぎた畑は5年〜10年はかかります。例えば、作物の育ちが悪いから化学肥料を撒き、肥料をたくさん撒くと病気がでるので農薬を撒くという悪循環が連鎖している農地です。特に除草剤を撒いた土を作り替えることには至難します。手で掴むとポロッと欠ける土にしてしまう除草剤は、土壌内の微生物を全て殺してしまっているのではないかと思います。
とにかく、土壌のミネラルバランスを崩す農薬や化学肥料、除草剤を使うことは極力減らすべきだと考えています。"楽できるから""成長が早いから使う"ではなくて、"食べ物"として考えることが大切。みなさまの身体になるものだからこそ、安心・安全な野菜をお届けしたいです。
もちろん、陽当たりや水捌けが悪く、自然栽培では野菜が作れない畑もあります。しかし、良い野菜が作れないからと言って、そこで野菜を作らないのは違うと思います。畑ごとに役割があると思っているので、そういった畑では、中島先生の教えにもある通り、”最低限”かつ"適性な量"の農薬や肥料を使って野菜作りをしています。
安心・安全を担保するための記録
日々の作業記録は30年前からつけていました。圃場ごとの毎日の作業、播種、生育、収穫、土壌状況など、大切なことを手書きで記録していました。誰から言われて始めたというわけではありません。ただ、無農薬・無肥料と言っても証明が何もないので、安心・安全を裏付ける意味でも記録は残しておくべきと昔から考えていました。とあるお客様は、何よりもその記録を気に入ってくださって、大口のお取引をしていただくきっかけにもなりました。
履歴の記録に関してはそれからずっと、つけ続けています。だれがいつ来社しても、書類と合わせて明確に説明できるようにしています。安心・安全を裏付けるために。
農地を再生することで生まれる人の交流
耕作放棄地の再生は10年ほど前から始めました。そこで気付いたことは、後継者不足で農家を辞めたために、多くの耕作放棄地が存在していたこと。それをとても残念に感じたため、耕作放棄地の再生を始めるようになりました。再生させる畑では、最低限の農薬や化学肥料を使いながら、5年〜10年かけてゆっくりと土を作り上げます。
農家を辞める人がいてもその土地を気軽に再生できるように、田舎に帰ってきた人がすぐに就農できる土台を作れるように、これからも地域の未来を見据えて動いていきたいです。
有限会社サンズファーム
取締役 寺井 三郎
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